大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(ツ)100号 判決 1960年10月27日

上告人 控訴人・原告 古川浩

被上告人 被控訴人・被告 帝国産金興業株式会社 代表者 石川博資

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は、別紙上告理由書記載のとおりである。

原判決は、当事者間に争いない事実、ならびに証拠に基ずいて、上告人は桑原恵津子から裏書の方法によつて本件株式の譲渡を受けたが、右裏書は桑原恵津子が捺印することによつてなされ、その署名もしくは記名がなかつたこと、上告人は裏書人の記名を補充することなく、右株券を名義書替のため被上告会社に提出したが、昭和二十九年十一月二十四日被上告会社から返還を受け、その以後において、上告人自ら右株券の裏書人として桑原恵津子の記名を補充したこと、これよりさき、被上告会社においては、昭和二十八年四月二十八日開催の株主総会において株式併合の決議をし、同年五月一日各株主に対しその旨及び株券を同年八月二十日までに提出すべき旨を通知し、同時にその公告をしたこと、以上の事実を認定した上、桑原恵津子の裏書は捺印のみによつてなされたもので、裏書の方式に適つていないから裏書たる効力がない。仮にこのような場合には株式の譲渡人が株券の交付と同時に自己の記名の補充を譲受人に委託したものと解しえられるとしても、裏書(即ち株式譲渡)の効果は、譲受人が譲渡人の記名を補充したときに初めて生ずるものであるところ、上告人が本件株券に裏書人の記名を補充したのは、前記株券提出につき定められた期間即ち昭和二十八年八月二十日を経過することにより本件株券が既に効力を失つた以後であるから裏書たる効力がない。と判示して上告人の請求を棄却したものである。

所論は、株式の裏書は、裏書人の捺印のみで足りるのであつて、そのほかに記名を必要とする法律上の根拠はない。仮にそうでなくても、捺印のみで足りるとする商慣習があると主張する。しかしながら、商法第二百五条により株式の裏書に準用される手形法第十三条、および第八十二条の規定によれば、記名株式譲渡のための裏書は、株券または補箋に記載して裏書人がこれに署名もしくは記名捺印することを要し、たとえ被裏書人を指定しないいわゆる白地式裏書の場合でも、裏書人の署名もしくは記名捺印を省略することは許されないことが明らかであるから、捺印のみによる裏書は不適法であつて、裏書たる効力を有しないものというべきである。而して裏書人が株券に捺印だけをしてこれを譲受人に交付した場合には、その記名の補充を譲受人に委託したものと認めるのが相当であるとしても、それが裏書たる効力を生ずるのは、その記名が補充され、裏書の要件が完備されたときであると解するのを相当とするから、原判決が正当に判示するように上告人が記名の補充をした当時既に株券が効力を失つていた場合には、後日その補充により、遡つて有効な裏書があつたものとすることはできないのである。また所論、捺印のみによる裏書を有効とする商慣習の存することは原判決の認めなかつたところであるばかりでなく、元来裏書の方式に関する規定は、取引の安全確保の見地から権利移転の方式を法定したものであつて、強制法規たる性質を有するものと認むべきであるからみだりにこれを変更することは許されない。従つて記名のない、捺印のみによる裏書は無効であるとした原判決は正当である。

なお、所論は、上告人は昭和二十八年七月十日被上告会社に本件株券を名義書替のため提供したが、かかる場合において、もし裏書人の記名を補充する必要があれば、これを保管している被上告会社においてこれを補充すべき義務があると主張するもののようであるが、記名株式の名義変更の請求を受けて株券を受領した会社に、当然に上告人主張のような法律上の義務があるとは認められないし、上告人が本件株券を被上告会社に名義書替のため提出した際、被上告会社に対し裏書人の記名の補充を委託したという事実は上告人が原審において主張しなかつたところであるから、たとえ、上告人が被上告会社に対し株券を提出しておいたため、自ら裏書人の記名の補充ができなかつたとしても、これを保管していた被上告会社においてその記名を補充すべき義務があるということはできない。

要するに、原判決には法令の解釈を誤つた違法はなく、虚無の法律規定を適用したこともない。所論の判例を否認する理由を説明する要は固より存しない。所論はひつきよう独自の見解に立脚して原判決を非難するものであつて、採用の限りでない。

上告人は昭和三十四年十月三十日附を以て「上告理由書誤字訂正申立書」を提出した。しかし、その書面に記載してある事項は、最後の五行を除き、別紙上告理由書とは別の事項を記載したものであつて、これを単なる誤字訂正と目することはできない。そしてそれは上告理由書提出期間経過後に提出したものであるから、これについては判断をしない。

よつて本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四百一条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 奥田嘉治 判事 岸上康夫 判事 下関忠義)

上告の趣意

原判決は判決に影響を及ぼすこと明かなる法令の違背あり破毀して原審に差戻さるべきである。

一、虚無の法律規定を空想仮定して判断した違法がある。

原審判決理由の部「二、本案について、被控訴人は昭和二十八年七月十日訴外桑原恵津子から同人名義の控訴会社株式五十株(一株の金額五十円)の譲渡を受けたと主張するので、先づこの株式譲渡が有効になされたか否かの争点について判断する。」というて、続いて「右株式の譲渡が同控訴会社発行の五十株券(記号略第二八五九号)について裏書の方法によりなされたものであること、右裏書は単にこの株券の裏面に同訴外人の捺印することによつてなされ、その署名又は記名はなかつたことは当事者間に争がなく、当審における被控訴本人の供述(第二回)及び本件口頭弁論の全趣旨によると被控訴人は名義書替のため控訴会社に提出した右株券を同会社より昭和二十九年十一月二十四日返送を受けた後自ら右株券の裏書欄に桑原恵津子と記入して裏書人の記名をしたことが認められる。というて、これに引続いて「ところで記名株式を株券の裏書によつて譲渡する場合には……というて、この場合に裏書の方法による場合のことを考え、そして、「本件株式譲渡においては被控訴人が株券を名義書換のため控訴会社に提出した当時は裏書人たる桑原恵津子の捺印があつたのみで、その署名又は記名はなかつたこと前記のとおりであるから、この裏書はその形式的要件を欠きその効力を生じていなかつたこと明かである」と断じているのであるが、これは原審が、記名株式の譲渡に一般が株券に捺印のみする所謂裏書判のみで行つている、被控訴人の貧弱なる持株に於てすら他に他会社株券の裏判のみで二三人も先きからそのまま書換られて転輾し来つて、常に立派に各会社とも問題なく名義書換を行つているものの現物数拾種の株券を被控訴代理人に交付し証拠として提出することを依頼しおき且つ、証券取引所役員若しくは山一、日興、大和、野村の四大証券会社の株券受渡事務担当者を証人申請もした筈であるが、原審は一切之を認めず、原判決は、「二、本案について……、先づこの株式譲渡が有効になされたか否かの争点について判断する。」というて「ところで記名株式を株券の裏書によつて譲渡する場合にはその裏書について……」と特に株券の裏書の場合を選んで、そして、「そこで記名株式を株式の裏書によつて譲渡する場合にはその裏書について手形法第十三条の規定が準用されている(商法第二百五条第二項)から、その形式的要件として裏書人の署名又は記名捺印がなければならず、この要件を欠く裏書は裏書としての効果を生じないものと解せざるを得ないところ、」というているが、手形法第十三条の規定のどこにも「形式的要件として裏書人の署名又は記名捺印がなければならない」旨は規定されていない。手形法第十三条のどこに原判決に謂うが如き「その形式的要件として裏書人の署名又は記名捺印がなければならない」とは規定していない。手形法第十三条だけではない、手形法の全体、商法の全体を通じて、株券の裏書は裏書人の署名又は記名捺印がなければならない」とは一切規定されていないのであるから、当て推量での法律解釈というよりは、規定なき法律を仮想し、空想法律での判断、判決は違法であるから破毀して原審に差戻されるべきだ。

二、原判決は理由の部「二、本案について、被控訴人(上告人)は……から-株式の譲渡を受けたと主張するので、先ずこの株式譲渡が有効になされたか否かの争点について判断する。」というて、記名株式を株券の裏書によつて譲渡する場合をのみ、特に考え判断したが(中略)

以上が商法第二〇五条記名株式の譲渡方式に関する規定であるが、これによつて原審は本件判決の記名株式を株券の裏書によつて譲渡する場合の裏書についてだけを考えたのであるが株券の裏書については手形法第十三条により「裏書は……単に裏書人の署名のみを以て之を為すことを得」によることができるのである。而して今日日常株券を取扱う人の間では普通に株券譲渡人若しくは裏書人名欄に何某証券会社代表何某とあるゴム判を押捺し或は個人氏名のみでもゴム判を以て押捺し、ゴム判の押印を以てせる氏名を署名と認めこの裏書を以て普通に取扱つている。これは全国証券取引所を中心とせる組合証券業者間の規約を以てせる慣行である。この捺印を署名と見る慣行的解釈と本上告人が、昭和三十三年十二月八日提出したる判例を否定する判断の理由を附していない違法がある。△昭和三十三年十二月提出せる判例写 裏書人のみで記名のない株券裏書の効力株主権仮処分異議控訴事件 東京高等 昭和二八(ネ)第六七四号 昭和二八年一二、九判決 控訴人 天野修一外二五名 被控訴人 東京港湾倉庫株式会社 第一審 東京地方裁判所

三、原判決は引続き「株式の譲渡人が株券の受付と同時に自己の記名の補充を譲受人に委託したものと解し得るとしても、裏書の(従つて株式譲渡の)効果は譲受人が譲渡人の記名の補充したときに初めて生ずるものと解釈せざるを得ないところ……」というのが、裏判のみの裏書が有効であり株券譲渡が有効であつて而して正当なる株券取得者が正式手続を以つて名義書替請求を為し、会社が之を受理して名義書換のための株券預り証を交付したときから会社は書換義務あり、昭和二十八年七月十日受理して同月二十日書換完了株券預り証引換に株券を返還することは会社の当然且つ約したる義務であつたのである。当時株式併合のための株券提供の催告期間中であつたことは株式名義書換停止期間中でなかつたから株式名義書換義務の履行を何等妨げざるものであることは言うまでもないことであり会社がこの当然為さねばならぬ義務を回避して遂に株券横領の告訴をされたことは会社の不正が告訴されただけで、そのため書換義務が取消され、或は免除さるるものでなく且又義務履行を遷延した口実ともならない。従つて株券裏の相当欄に株主の捺印せるだけで株券の交付により法的には完全な譲渡であり捺印だけでも法にいう譲渡人の署名あるものとして譲渡の裏書(意思表示)あるものであるから会社が株式併合のために旧株券の提供期間を定めたその以後に株券に譲渡人の氏名を加筆してもしなくても譲受人の株式取得の権利に何等異変を生ずるものではない。株式併合により旧株券の提供催告期間を経過後であつても会社の書換義務には変りはなく、書換請求は株券提供期限と相関せざる時期になされたのであつて、複判のみで書換請求したのは二十八年七月十日でこれで会社は受理し同二十日完了返還の筈であつた、裏判だけで合法的であり、慣習的にも世間全般やつていることで判例も提示(昭和三十三年十二月八日詳記提出)し、同様裏判のみで書換えられた株券三十四種類七十四枚を有するその株券銘柄をも明かにし証拠として提出せしめ、山一、日興等四大証券取引所の株券受渡事務担当者の証人申請もした。今時裏判だけでは違法だ、譲渡無効だなぞいうのは利の為めに狂うた代言人共は致方ないが裁判所がこれでは唖然たるの外はない。商法第二〇五条第二項から手形法第十二条等強行法規の解釈上裏判だけでは記名株式の譲渡効力を否定するとあるが、この強制法規のどこに「署名又は記名捺印が無ければ要件を欠く」と規定してあるか、会社が株主を確認せること明かなその株主が譲渡の意思表示として捺印せるものを取引の慣習上署名あるものと認め「裏書は裏書人の署名を以て為すことを得」「白地式裏書」之は毎日何十万株何百万株の取引上慣習的に署名と認めて受渡されているのである。また株券提出期間の満了と共に旧株券は失権するとの解釈は違つている、株式併合による減資の場合とは違う。減資する時は失権を予告せねばならない。減資の場合ではなく五十円株十株で五百円一株にしたのであるから旧株主は株券提供期間を経過しても失権予告なしに矢権はされない。法律によらない滅茶滅茶裁判は破毀されるべきである。

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